2017年7月10日月曜日

レビュー企画 第2回 岡本昌也(安住の地)





 京都学生演劇祭は、京都の演劇の未来の担い手を育てる土壌となりうるか。このような問いを立てた場合、われわれは彼らの今後を追いかける必要があるだろう。安住の地はアトリエ劇研で、2017年7月旗揚げした。安住の地がこれからどのようにステップを踏んでいくかは、それ以降の世代にとって一つの道程となるだろう。旗揚げ公演「渓谷メトロポリス計画」の様子についての個人的な評価は劇団なかゆびブログにおける劇評に預けるとして、ここでは、同公演で脚本・演出を務めた岡本昌也が旗揚げに行き着くまでをレビューしてみようと思う。


岡本は、京都学生演劇祭2013で高校生の時、喀血劇場の俳優として初参加した。そして2014年にも西一風として参加し、京都演劇祭賞(現在の観客賞) を受賞。その後、安住の地を結成。同団体は、2017年6月にアトリエ劇研にて「渓谷メトロポリス計画」を上演し、旗揚げした。


神田「2013年と2014年、それぞれどんな印象を持ちますか?」


岡本「2013年は、今よりローカルでしたね。オフィシャル感がなくて。一俳優としての印象にすぎないけれど、立誠の音楽室でやって、みんなでワイワイする感じがありました。2014年は『コンペティション』ていう印象が強くなっていました。参加するメンツによって雰囲気は大きく変わるんじゃないでしょうか」


神田「今と比較した印象は?」


岡本「2013年のよさはあって、楽屋も広くて一緒で、『絶対倒すからな』とか内輪で言い合ってワイワイ、とにかく楽しかったです。2014年は『バトル』っていう感じで。当時すごく尖ってて、自信があったんですね。賞とって、このまま売れていくんだみたいな(笑)。それ以降ちょっと太田省吾とかハイナー・ミュラーとか読んじゃって、エンタメ志向から離れていきました。それで、(自分の)今がある。2015年、2016年や全国もそうだけれど、自分が参加したとき(2013,2014)にあったホームみたいな空気は失われつつあると思います。ガチコンペみたいな。それはぼくにとってはすごくうらやましいことです」




 岡本は劇団西一風として、第1回の全国学生演劇祭に出演した。当時の様子について伺ってみた。


岡本「全国は鈴木あいれにぼろ負けでした。観客点も、僅差で2位。審査員が違ったらと考えることもできるけれど、そこは受け入れるしかないと思ってます。審査員については、2014年の京都学生演劇祭でも役者の演技や話の構成とか、技術的に評価されたところが多かったと思います」


 その後、岡本は劇団西一風を引退し、次のステップに進まねばならなくなる。そのなかで、中村彩乃と出会う。


神田「どうして、彼女にオファーしたんですか?」
岡本「ルサンチカという団体の公演を観たときに華があるなと思いました。それで、軽めの企画でオファーしてみたのですが、好みとか考え方とかがあまりマッチしなくて、むしろその違いに興味が沸きました」

神田「なるほど。むしろ合わないことのほうが新鮮だったんですね」


次のステップへ


岡本「西一風を引退した後も、演劇を続けたいと思ってたんだ。おちょちょという企画で、ライブハウスで上演を続けていた時期があったんですが、このやり方では持たないな、と。何より作品が。毎回新しいメンバーで作って、解散して、また新しいメンバーを集めてっていうのを繰り返していたんですが、自分の作り方を毎度説明するというのは作品にとってよくないと考えました。もちろん、そういうユニットみたいな形で進める手段もあるけれど、技術の積み重ねの上にある演劇の強度がぼくは好きだから、そのために、『固定のメンバーによる劇団』というスタイルを選びました」

軸がないままわかったふりをしたくない


同「それに、ライブハウスは音楽を提供する場じゃないですか? もともと意味のある空間で創作することになるのですが、ぼくにとっては劇場というなにもない場で、作品をつくらないと作品のためにならない。作品のためにはなにが必要かという問いを突き詰めて、今にいたるっていう感じです」
同「あと、演劇の懐の広さに甘えてしまうところがあって、混濁した内容になってしまうっていう自覚がありました。自分の文体や文脈みたいなものを探る年月が必要と感じたんです。そこで考え方が違う人、反論してくれる人がいると、自分の成長につながるんじゃないかとも考えています。同世代を見てみると、『自分の演劇』っていうものが決まっているなという印象があって、『自分には軸がないな』って。軸がないままわかったふりをしたくない。だからこそ、しっかりと考え方を(醸成すべき)、と」


神田「演劇祭に参加していた時期と今とで、モチベーションに変化はありますか?」


岡本「演劇祭のときはなにも考えていませんでした。でも演劇祭のおかげで、横のつながりが増えて、別の人たちがどうやって考えて演劇を続けているのかを、いろんな演劇の続け方を、知ることができたのは収穫でしたね。それで、『自分も考えなきゃ』ってなるきっかけになりました。『自分がいちばんおもしろい』と思わなくなりました(笑)」



 演劇は一人では創れない。組織、集団をうまくまとめていくためには、価値観が異なることは前提条件として、考慮しなければならない。ただ、正直にいえば同じ価値観の人間といるほうが心地がいいものではないだろうか。岡本の「むしろ違いに興味が沸いた」というきっかけは、安住の地のあり方を規定するものであるように思える。


 劇団西一風は、今年も参加しており常連の団体といって差し支えないだろう。しかし、そんな劇団ばかりでもない。当然であるが作風も、参加する意図も様々である。同じ劇団でも、学生劇団は世代によっても作風に揺らぎがある。そんな「ごちゃまぜ」でも同じ条件で、上演する。それによって得られる刺激は簡単に得られるものではなかっただろう。そんな「ごちゃまぜ」のなかで、出会い、2017年8月閉鎖されるアトリエ劇研で旗揚げ公演にまで至ったのが、安住の地である。アトリエ劇研の閉鎖という京都演劇界にとって一つの転換点にさしかかって、「京都を拠点に」という彼らは新しく「これから」を歩んでいく。

(京都学生演劇祭2017 企画スタッフ 神田真直)


岡本昌也(おかもと・まさや)


アーティストグループ『安住の地』所属。
演劇作家。映像作家。過去の代表作に、映画監督、園子温の作品を舞台化した「夢の中へ」、京都学生演劇祭2014で大賞を受賞した「いちごパンツを撃鉄に」、インターネットで自撮り動画を募集して作った映画「えっと、@創造主、ふわり終末ろん、feat.世界。」など。

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京都学生演劇祭に過去に参加した経験のある方のインタビューや寄稿を募集しています。一人でも多くの方にご意見・お話をお伺いしたく、是非ともご協力をお願いいたします。

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