2017年8月15日火曜日

レビュー企画 第3回 藤本匠(劇団べれゑ・幻灯劇場)


演劇行脚――神戸、金沢、京都、韓国、東京





 京都学生演劇祭2016には、他地域からの参加があった。第1回でインタビューした劇団テフノロGの滋賀県よりも遠方の、石川県の金沢美術工芸大学の学生劇団、劇団べれゑである。上演作品『炬燵』の脚本・演出・音楽を務めた藤本匠に当時の心境と今の心境、そして彼が後に幻灯劇場に加入することになるまで等を聞いた。





神田「お久しぶりです。韓国以来ですね。さて、まずはプロフィールから伺ってみたいと思います。今は、どのように演劇をはじめとして芸術に関わっていますか?」


藤本「幻灯劇場に所属しています。今は武蔵野美術大学に編入して、実写ドラマのカリキュラムを取っています。先日、短編の作品を発表して、今も映像作品の制作に取りかかっています。また武蔵野美術大学には演劇サークルがあって、epa!というのですが、そこの舞台美術班にも所属しています。10人を越えることはない劇団べれゑとはかなり違って、大規模な体制です」



 藤本はepa!で何かを企んでいる様子であるが、それについては主旨からはずれてしまいそうなので、演劇祭についてのことについて聞いていこう。




金沢から遙々


 
神田「金沢が拠点の劇団べれゑとして、京都学生演劇祭2016への参加を決めた経緯について教えてもらえますか?」


藤本「最初のきっかけは、その時自分は休学していたんだけど、その間に劇団が参加した石川舞台芸術祭のシンポジウムで、このしたやみの山口さんと出会ったことです(山口浩章さんは今年の審査員)。彼から京都学生演劇祭を紹介されて、これは面白そうじゃない?って自分は感じて、休学中で地元の神戸にいたので、KSTFのミーティングに出ました。学生がたくさん集まって、演劇祭をつくろうとしていることが新鮮で、金沢じゃこれはありえない。もちろん、学生はたくさんいるけれど、学生の演劇人はほんとうに少ないですから。」


神田「それで、参加することになって、どういう思惑で創作していましたか?」


藤本「もう名古屋、東京、東北、札幌、福岡、中国、四国と学生演劇祭はあるけれど、当時も今も北陸には演劇祭がないんです。金沢での創作に行き詰まりを感じていたこともあります。中身のある作品を作りたくても、どうしても片手間でしか作れない、市民劇団という形式の団体が多くて、そのなかでやっていても、というのと、やはり『賞』というものもなくて、実力を試したかったですね。また同じ学生という立場で、自分たちの作品がどう観られ、どう受け入れられるのかすごく興味がありました・・・・・・・・・・・・・・演劇祭というフォーマットにおいては『本公演のようには仕込めない』という前提がありますが、そこに生演奏や圧倒的な舞台美術という大目玉を、つまり自分たちの持ち味を最大限に引きだそうとしていました。空間のなかで音を編み込んでいく、音という存在を扱う芝居づくり。すごく挑戦的なことをやったなと思いますし、失敗もあったかもしれないけれど、手応えはありました」





神田「小屋入りから、打ち上げにかけてはいかがでしたか?」


藤本「仕込みから参加できて、舞台監督さんや、当時劇団西一風の新原君、劇団なかゆびの綱澤君や神田君等たくさんの人と多面的に関わることができました。トラブルが起きた際も、助けてもらえました」


神田「初日はトラブルで大変だったかもしれませんが、個人的にはあのステージが一番よかったですよ」


藤本「クオリティとしてどうかではなく、俳優や舞台から得体の知れないエネルギーが出ていたと思います。今となってはいい思い出です。乗り切れたのは、俳優、スタッフたちがそれぞれ覚悟を持って京都に来ていたというところにあると思います」


神田「作品に対して、いろいろな評価を受けることになったと思いますが、それについてはいかがでしたか?」


藤本「『懐かしい』という感想をいただいたり、無意識だったけれど、自分の系譜がアングラにあることを認識しました。やはりちゃんと観ていただくことができたというのはうれしいことです。これまでは、なかなか自分たちが想像していた域を出ない感想しかもらえなかったのですが、観客が演者に対峙していることの実感が持てましたね。他団体の作品については、自分が作品を出していなかったら、全く違った印象になったと思います。作品を出していたからこそ、他団体の作品をよく観て、考えることができました」





・・・・・・・・・・





神田「劇団べれゑとしては、どんな成果があげられますか?」 


藤本「多くの方に批評をしてもらったというところが大きいです。審査員の講評だけでも、劇団としては次に繋がる。それだけじゃなくて、観劇レポーターや、神田君の文章もあって、ちゃんと観て、受け止めてくれる人がいる、批評性をもって作品を受け止めてくれた人がいる。そういうことは、作り手としてはほんとうにありがたいところです。団体がタフになれた。このタフさをふまえた上で、これから劇団としてやっていくという、全員が次につなげていく姿勢になったと思います」





神田「他団体の上演作品に対してはどんな印象を受けましたか?」


藤本「例えば、劇団なかゆびはリハから見ていたのですが作品を見て率直に『面白い人がいるな』と感じたのが印象に残っています。俳優としても印象的でした。僕がパンフレットのデザインを担当していたこともあり、神田君とは音声のみで会議していたのですが、そのときの印象とギャップがありました。発言やブログの記事から堅い人を想像していたら、いざ仕込みの時に対面してみると『良いあんちゃん』って感じで。でも作品は尖っていて。もちろん、仕込みから仲良くなっていたけれど、個人を知っているかどうかではなかったと思います。あと幻灯劇場は痒いなという印象でした。自分があまり好きではないスタイル、エンターテイメント的なものでした。でも、本(脚本)が惜しげもなく、ダジャレを入れ込み、それでもコメディ一辺倒でなく物語をしっかり見せられる作劇段階にもっていける筋を持ったクオリティがありました。藤井は、物語をつくることに長けた人だと思います。でも今は『56db』で彼が今までとは異なった作劇に挑戦している。彼の演出を好きでいる劇団員がこれからの作品をどう受け止めるんだろうなというのは気になるところですね。それから青月ごっこ。青倉さんのことは何も知らなかった。転換中にトラブルが起こって、それに触発された出演者がそれを乗り越えるために最大限の集中力とパフォーマンスを発揮した上演で、素晴らしかった。『炬燵』と同様ダメ人間が出てくる物語でしたが、駄目人間の造形が僕にとって他人事に思えないほど共感させられました。やりとりも旨く、汗のかきかた、劇団なかゆびの『断絶の詩人』もそうだったけれど、自分はこの表現方法かしらないからとにかく一生懸命にやるというのが、グッときました」








神田「京都学生演劇祭はこれから、どんな場になることを期待しますか?」


藤本「京都学生演劇祭のあとには、全国学生演劇祭が控えているという意識が去年は強烈にありました。受賞を狙う劇団がしのぎを削りあうことが、見応えのある作品が並ぶことにつながったのではないでしょうか。なので賞レースとしての側面は推し進めても良いと思います。でも、そういった野心とは別に動機を持つ劇団もいるはずですから、賞ではない側面にも参加メリットを作り出す必要があるように思います。やっぱりフィードバック、お互いの作品を観て、お互いに刺激しあう、批評性を持った観客がいるということが大切になっていくんじゃないかと思います。あとは、会場について。自分たちは劇場という空間よりも、ギャラリーなどの非劇場を選んで公演してきたので、KSTFの会場が吉田寮という本来劇場でないという側面を真っ向から意識していた。学生劇団にとって学校のホール以外のイレギュラーな会場での上演には意義があると思うので、KSTFがその側面を意識した会場選択をすることをこれからも続けてほしいと思います。


 劇場というのは観客にとっては非日常だけど、劇場にいる人間にとっては結局何をやっても日常。演劇祭でない場合は、観客は非日常を体験して、わりと何でも面白いと言ってくれる。でも演劇祭では、お互いに演劇をつくっている人同士で、見合うので、迂闊に「すごい」という感想が出せないと思います。演劇祭であるということの価値の部分から、考えていくべきだと思います」




そして、現在


藤本「当時は、自分が幻灯劇場と芝居を作るなんて思ってもみなかったし、上京して映画という新しいジャンルで作品を作っているとは想像できなかった。」


藤本「金沢という地方からの参加を受け入れて対等に演劇祭作り上げていく仲間として僕たちを扱ってくれた実行委員と参加団体に感謝します。僕が後に幻灯と作品を作ることになったように、演劇祭ではクリエイティブな出会いが必ずあります。これから演劇祭をつくり、参加する人には是非交流を大切にしてほしいと思います」






 京都学生演劇祭は、単に作品を発表することだけがその価値ではない。参加する者同士が、それ以降創作活動を続けるにせよ続けないにせよ、交流する場としての価値も忘れてはならない。藤本は2017年、全国学生演劇祭に幻灯劇場の音楽家として参加することになる。幻灯劇場としてはさらに、まだ記憶に新しい大韓民国演劇祭にも参加。『56db』という作品のコンセプトに、藤本の存在が与えた影響は少なくないだろう。高い技術に裏付けされた創作意欲で、これからも多方面で活躍することになるはずである。『56db』は「音響」という演出手段を問い直す作品であるが、今後も姿形を変えて、上演される予定であるという。幻灯劇場へのインタビューも予定しているので、このことについてはその回にあずけたい。




藤本匠(ふじもと・しょう)

音楽家・ギタリスト・演出・舞台美術家・舞台監督として2012 年~2016 年に金沢を拠点に演劇活動を展開。元劇団べれゑ。彫刻を学びながら、演出として自主公演の他にいしかわ演劇/かなざわ演劇祭に自身の演出作を多数出品。
現在は東京にて映画製作を学ぶ。幻灯劇場所属。


略歴
2013 年劇団アンゲルス『鴨猟』サハリンスク(露)公演音楽生演奏参加
2013 年21世紀美術館日韓英合同企画dreamthinkspeakONE DAY MAYBE』参加
2014 年劇団アンゲルス『BLACK MEDIA』春川市(韓)公演音楽生演奏美術参加

2016 年CD"五郎島"Full Album『阿吽』制作
2016 年劇団ベれゑ『炬燵』第六回京都学生演劇祭出品 作・演出・美術設計・音楽生演奏
2017 年幻灯劇場『56db』大邱広域市(韓)第二回大韓民国演劇祭 公演音楽生演奏参加


など


(敬称、略)





※インタビュワー、執筆担当:神田真直(京都学生演劇祭実行委員会 会長/企画スタッフ、劇団なかゆび 主宰)

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