2017年6月26日月曜日

レビュー企画 第1回 中村彩乃(安住の地)




 さて、今年もレビュー企画を始動させようと思う。しかし、昨年の企画とは大きく異なるものになるだろう。昨年のレビュー企画は演劇祭の過去を問い直す、いわば過去を探す旅だった。勿論、今年も過去を探す旅には違いないのだが、今年のレビュー対象は未来に限りなく近いものになるだろう。というのも、2014年、2015年、2016年と近年の参加者を中心にレビューする予定だからである。この企画が京都演劇の先が見えてくる可能性を秘めていると、京都学生演劇祭は信じている。


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はじめに

 京都学生演劇祭2014、中村彩乃はスーパーマツモトとして参加した。そのなかで、当時劇団西一風だった俳優の森脇康貴と、さらに同年に京都学生演劇祭賞を受賞した同劇団の脚本・演出を務めていた岡本昌也と知り合うことになる。その後彼らと安住の地を結成することになるわけであるが、まさ京都学生演劇祭が未来の演劇創作のための場となったと言えるだろう。もちろん、彼らの活動がこれからどのように発展していくかは未だわからない。しかし一つの可能性を生み出した点は、京都学生演劇祭の価値として捉えることができる。


悩みながら、それでも進んでいくしかない




 京都女子大学の劇団S.F.P.の解散は京都の演劇人にとって記憶に新しいところである。小生はもちろん当事者ではないし、ここはその原因について検討する場ではないから、これ以上述べることはしない。中村は劇団S.F.P.の秋公演を観に行ったのが演劇を始めるきっかけになったという。軽音楽部でカレッジライフを満喫していた女子大生に、そうまで思わせる上演とは一体どのようなものだったのか。その場に居合わせない限り、今となってはわからない。ただ強い引力を持った上演がそこにあったのである。そしてその引力は、今日まで失われることなく健在である。
 引力は中村を京都学生演劇祭のところまで、連れてきた。2014年、スーパーマツモトとして参加した中村は劇団西一風の森脇康貴の演技に感銘を受け、その後連絡先を交換したという。ここから、安住の地は始まったのである。2016年には岡本昌也に役者でオファーを受け、初めて共演。同世代との創作経験が多くなかった彼女にとってこれは貴重な経験であった。先輩、後輩、あるいはそれ以上に大きく年齢差、時には親程の年齢の俳優、演出やスタッフと創作するのではなく、横一列に並んで共有しながら前進していくということに、可能性を感じたようである。そして「上の世代はいつまでもいてくれるわけじゃない」。いつしかそう考えるようになった。もちろん、考えているだけでは何も変わらない。さらに学生というのは期限つきの肩書きでしかないので、「その先」を見据えなければならない。時間は刻一刻と迫ってくる。
 同時期に、当時劇団西一風の岡本昌也も迷っていたという。演劇人としての次のステップ。京都で続けることの必然性は、外側にはどこにもない。自らの意志で、決めなければならない。中村は岡本に「もっと腰を据えてやったほうがいいんじゃないか」と言ったが、それは彼女自身も同じことであった。そうして、二人の問題意識は交叉した。
 演劇は一人の力では創作できない。いつだって思いがけない偶然の巡り合わせのなかで、上演にたどり着くものである。たとえ天性の才能を持っていたとしても、この偶然がなければ今世に知れる著名な俳優も演出家たちも、何一つとして残すことができなかっただろう。安住の地はその点においては一つの可能性を秘めている。そして、京都学生演劇祭はその足がかりとなったのである。毎年、このような偶然の巡り合わせが起こるとは限らない。それが安住の地のように劇団として誰でにもわかる形で現前するとも限らない。だからこそ、安住の地の今後を追うことは京都学生演劇祭にとって非常に重要である。昨日まで何もなかったのに、明日にはそれがあるということーー京都学生演劇祭は「今日」としてあり続けなければならないのである。

(京都学生演劇祭2017 企画スタッフ 神田真直)




中村彩乃(なかむら・あやの)

1994年生まれ。奈良県出身。京都女子大学在学中に演劇活動を始める。その後劇団飛び道具所属を経て、2016年に安住の地を旗揚げ。
笑の内閣『超天晴!福島旅行』、ルサンチカ『楽屋~流れ去るものは、やがて懐かしき~』、エイチエムピー・シアターカンパニー『阿部定の犬』、劇団飛び道具『アルト-橋島篇-』、点の階『・・・』等に出演。


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